時事メガネ

気になった時事問題を少し追ってみる

地中海の密航船事故再び

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去年も多発していた難民ボートの沈没事故ですが、今年の死者・行方不明者のペースは去年より増加しており、19日未明の沈没船による死者・行方不明者は史上最悪の規模になってしまいそうです。

冒頭のターゲスシュピーゲル紙一面の写真はまた別の密航船ですが、大変心を打ったので掲載しました。これでは画質が悪くて表情までは確認できませんが、写真をよく見ると、船上の人々が皆、上を見上げて笑っています。赤ん坊を抱える人も、女性も居ます。その一人一人から、喜びが溢れ出ていることが見て取れます。上空の報道ヘリコプターに、生き残ったことを、生きてヨーロッパ圏にたどり着いたことを知ったからです。この歓喜の表情に、それまでの不安や苦しみの大きさが想像されます。子供を連れてこのような賭けに出る親の不安はいかほどでしょうか。そこまでの危険を冒して抜け出したい故郷は、どれほどの状態にあるのでしょうか。

 

 

・・・・・・

 

 

〈今週〉

 

19日未明 

リビア沖約130kmで木製・全長20~30mの漁船が、イタリア海岸警備に救助の要請をする。救助に向かったポルトガルの貨物船が現場に到着した際に転覆する。原因については、船長が逮捕を逃れ難民に紛れ込む為に舵を離れ、救助を求める人々が貨物船側に集まり重心が偏ったという説が多いが調査中である。28名の生存者が証言するところによると、700~950人が搭乗しており、約300名は施錠した貨物室に閉じ込められていた。沈没地点は海底が深くなっており、引き上げは困難であるという。

 

20日   

生存者の内、27歳のチュニジア人船長が、過失致死、海難事故惹起、及び違法入国補助の容疑で、25歳のシリア人運転士が犯罪行為幇助の容疑で逮捕される。

EU各国の内相・外相ルクセンブルグに招集される。すぐに実行可能な10ヶ条のプランを提示、これを木曜日の首脳会議で検討する。

リビア沖でゴムボートが合計6隻発見される、合わせて638名が保護された。ギリシャロードス島でも観光地の海岸で難民のボートが座礁、海岸から100mの位置だったが少なくとも3名は死亡、93名が救助された。200名程が乗っていたという。

 

21日   

日曜日の事故を受け、リビアでは密航者で満員の船を複数出港停止させた。ヨーロッパに向かうつもりであった600人以上のアフリカ人が足止めされる。

カラブリア沖で446名を保護。

 

23日 

ブリュッセルで特別EU首脳会談

ギリシャ沖で難民船が救護要請を発信、90名が保護された。

 

24日

地中海で334名が保護される。

 

25日

リビア沖海上で274名が保護される。

 

 

〈背景〉

 

地中海を渡ってくる難民は、2014年は2013年の4倍、2015年は2014年の10倍のペースで増加しており、注目に値する。2015年は現時点までの死者・行方不明者の累計が2014年の同時期に比べて30倍になっている。このままだと数週間で去年の死者・行方不明者数を超える恐れがある。先週もリビア沖で400人が行方不明になった転覆事故があったばかりで、この事故で救出された144人を含むと、たった1週間の間に8500人がイタリア海岸警備隊に保護されている。

行方不明者数に関しては出国記録がないので把握が難しいが、ある調査では過去10年に2万人、また別の調査では過去15年で2万5000~8万の死者が推定されている。

 

人々が故郷を捨てヨーロッパを目指すとき、貧困、宗教的迫害、政治的迫害など、抱える理由は様々だ。この地中海コースのような命がけの経路で多数の難民が渡ってくる場合、現地でも命に関わる喫緊の状況にあると考えるのが自然である。つまり難民の数に突出した変化が見られるということは、国内情勢に劇的な変化があった時期と重なる。ここ数年は増加している難民の総計も、一定に増加し続けている訳ではなく、増減の波を描いている。

例えば2012年に渡航してきたチュニジア人は2011年の10分の1以下に過ぎない。2014年の地中海経由難民の半数がシリアとエリトリア出身だ。内戦の長引くシリア、独裁者の圧政下にあるエリトリア、どちらの国も大変厳しい状況にある。それでも地中海コースを取るのはほんの一部で、シリア人を例にすると1%程度に過ぎない。その他の人々は陸続きの周辺国に逃げたり、混乱する国内を逃げ回っている。

 

政情不安によって、当該国市民のみならず、出稼ぎ外国人の流動ももたらす。最近では特に社会不安に伴う宗教差別が挙げられる。例えばリビアに何年間も住んでいる、サブサハラアフリカ圏からの出稼ぎ労働者は、キリスト教であるが故に迫害されるようになったと話しているが、同様の報告が近年増加している。これを裏付けるように先週は、地中海を北上中の難民ボート上から、12名のキリスト教徒が15名程のイスラム教徒に突き落とされるという事件も発生した。

 

 

〈対策・課題〉

 

日曜の事故を受けて、月曜日の外相会議・対策草案の発表と、行動の速さには驚かされるが、実はこの10ヶ条プランの内容に目新しさはない。ランペドューサ沖転覆事故の後に出された欧州評議会の内容と殆ど変わりはなく、むしろ喉元を過ぎて危機感が忘れられていたことを思い出させるようだ。

10ヶ条プランの要点は:

1.トリトンポセイドンの強化

2.仲介業者所有船の破壊(ソマリア沖対海賊作戦アトランタを参考にする)

3.国境・難民に関わる各主要機関の情報共有(仲介業者のメンバーや資金の流れを追う)

4.欧州難民問題支援機構はイタリアとギリシャに支援チームを送り手続きを迅速化させる

5.すべての難民の指紋を採取

6.難民の分配をスムーズにする共同のシナリオ作成

7.緊急を要する難民5000人を受け入れるパイロットプロジェクトの実行

8.フロンテックス主導の強制送還プログラム

9.リビア周辺国と欧州協議会と欧州対外行動局の協力関係構築

10.現地から難民動向を報告する公務員の派遣

 

10ヶ条プランの他にも、政治家、メディア、人権団体など各方面から、様々な対策案が出されているが、整理する為に種類毎に分類する。

1.難民船の救助(既に海洋に出てきた難民の救助)

 a.監視・救助の強化

 b.救助後の難民の国家間での分配

2.仲介業者の撲滅

 a.仲介業者所有船の破壊

 b.現地への合法な難民窓口設置、ヨーロッパによる格安・安全な輸送

3.出身地・中継地の状況改善

 a.紛争地からはビザ手続きの不要な緊急受け入れ(緊急対策)

 b.政情安定化の為の政治的努力(中期的対策)

 c.貧困地への援助、貧困地域との適正な価格での取引(長期的対策)

 

1が最も急を要することであることは確かだが、重要な点は1、2、3が同時に実行されるところにある。1が2に先立てば仲介業者の利益に繋がり、1、2が3に先立てば難民が行き場を失う。ヨーロッパの倫理が何もしないことを許さない以上、何から何までせざるを得ないということだ。

そして木曜日の緊急首脳会議では、より具体的な方向性が検討された。しかしEU各国の間にも温度差がある。合法的難民受け入れも、難民の分担制も、結局現時点で難民の負担が軽い国は積極的ではない。オーストリアやドイツなどあらゆる点に積極的な国もあれば、難民救助や現地対策に協力的でも自国への難民増加を望まないというイギリスのような国もあり、より厳しい取締りを望むハンガリーのような国もある。多くの点で意見の一致が出来なかったことで、会合の成果がぼやけてしまい、首脳会合自体が「象徴的な集まり」と揶揄される結果となった。

 

比較的具体的な段階まで話しが進んだのは、海上警備の予算と、パイロットプロジェクトについてであると評価して良いだろう。それでも、人権団体やメディアからはその内容について批判が出ている。

まずパイロットプロジェクトへの批判は、5000人という受け入れ人数が少なすぎるという点と、自発的な参加によるプロジェクトであり、そもそも難民に寛大な一部の国に参加が限られるであろうという点である。参考に挙げておくと、日本で実施されたミャンマー難民受け入れのパイロットプロジェクトで用意された受け入れ枠は年に30人である。

 

次に海上警備についてだが、トリトンポセイドンというのは、欧州対外国境管理協力機関(通称:フロンテックス )のプロジェクト名で、トリトンはイタリア南海岸、ポセイドンギリシャ海洋を管轄地域とする。10ヶ条プランの段階では予算倍増と設備(船、ヘリ)の導入が挙げられていたのが、首脳会議では3倍増の予算に加え、各国から申し出のあった軍艦などの具体的な利用設備まで纏まった。それでも、批判されるのはトリトンのこれまでの予算が、月290万ユーロ、ポセイドンは月約60万ユーロと小額であったためである。3倍増の900万ユーロといっても、イタリア海軍が以前単独で行っていた海洋警備隊、マーレ・ノストルムの最終月間予算930万ユーロにやっと届くかどうかという程度だ。

 

ランペデューサの事故を受けて創設されたマーレ・ノストルムは、1年の活動で15万810名の難民を救助しており、(活動期間中に表面化した死者は推定3500名)何かとトリトンと比較されることが多い。マーレ・ノストルムは2014年10月に、経費上の理由で中止された。この中止については、イタリアの度重なる資金援助の要請にも関わらず、イタリア海軍を資金の面で孤立させたEUの責任も大きい。その後継作戦としてフロンテックスのトリトンが開始されたが、ヨーロッパ国境の監視が業務であり独自の船などは持たない。

ワルシャワにあるフロンテックス本部では、1日に2度更新される地中海の衛星やドローンによる画像が表示されている。担当者は疑わしい船舶をズーム確認、ゴムボートなどを発見すれば通報する。国境の監視を業務とするフロンテックスの役割はここまでであり、これらの難民の救助に向かうかどうかは各国の責任となる。しかし、イタリア・マルタ間など、海上の救助管轄範囲は特定しづらいことも多い。しかもリビア海域までをパトロールしていたマーレ・ノストルムと異なり、トリトンの監視区域はイタリア海岸より南30海里(約55km)までである。管理区域の拡大は木曜日の決定には含まれず、これについては再検討の必要が訴えられている。

人権団体、各紙、ドイツ政府内部からも、トリトン強化よりも、これを廃止して、その資金・装備援助を使ってマーレ・ノストルムを再開させる方が効果的である、という声が多く聞かれる。

 

海洋救助のジレンマとして心配されているのは、救助体制を整えればこういった密航は増え、仲介業者のビジネスに協力することになるということである。これはイタリア海軍のマーレ・ノストルムがEU各国から受けた批判でもあった。警備海域をリビア沖まで広げれば、仲介業者の成功と効率は上がり、事故のリスクが減る。ヨーロッパの船に助けてもらえることを期待して、より多くの難民が危険な航海に出ること、より状態の悪いボートが使われることに繋がる。またヨーロッパによる国境警備が厳しくなってからは、逮捕を避けるため、操縦士が自動操縦にセットし先に船を降りるケースが増えている。

しかし実際には難民の急激な増加はマーレ・ノストルム開始の4ヶ月前に起きており、終了後の今春も増加し続けている。救助体制よりも、当該地の情勢が難民の増減を決定しているからだ。ギリシャがトルコ国境に高さ4mの有刺鉄線を作った後も、仲介業者の報酬が増え越境の危険性が上がっただけで難民の数は減らなかった。アメリカもメキシコ国境の監視に多額の予算を導入したが、それでも年間35万人の南アメリカ人がアメリカに入国している。海難救助をすれば、結果として仲介業者のビジネスの業務を手伝うことになるかもしれない。しかし国境をより厳しく管理すれば、彼らのビジネスを価格の面において手助けすることになる。

 

そこで仲介業者撲滅を並行して行わなければならないのだが、数年に渡って地中海の密航仲介業者を調査したジャーナリストによると、仲介業者は一概に批難されるべき存在ではないという。そもそも長期ビジネスとして密航業を運営していた組織的な業者にとっては、顧客獲得の為の渡航成功が重要であり、それなりの努力をしていた。しかしリビア崩壊後の混乱に乗じて、アマチュア業者が多数参入したことが、事故の多発に繋がったという。こういった状況から、一部では業者同士の抗争も起きている。

多くの渡航希望者は自国で迫害されており、ヨーロッパで難民の条件に当てはまる人々だ。不法な国外脱出を幇助することは、法律に反してはいるが、そのことによって自国で生命の危険に脅かされている人々を救っているという見方も出来る。視座を変えれば、EUが国際法に反して難民の渡来を意図的に防いでいるが故、人々は財産をなげうって高額な違法仲介業者に依頼し命の危険を冒しているということも出来る。

 

仲介業者撲滅の一環としてEUは、不法渡航に使われるボートの破壊を検討しているが、現存の渡航手段を経つ以上、代替渡航手段を確立させる必要がある。この為に求められるのが、現地での正当な難民の窓口だ。避難先に辿り着かなければ難民申請できない仕組みこそが、危険な渡航の理由であるという考え方だ。出身地と出港地、すなわち中東及び北アフリカに難民センターを建設し、宿泊施設・食事・相談窓口の設置、現地から難民申請を出来るようにする。この場合も、海難救助と同じく心配されるのは、更なる難民の増加である。しかし合法な移民の受け入れがなくても、難民の数は増えている。それならば合法な移民の受け入れは、違法な移民を減らすと考えるべきである。

 

海難救助にしても現地での窓口設置にしても、それが難民の増加を招くという発想は、根本的な想像力が欠如している。助けてもらえるから海に出る訳でも、現地に窓口があるから申請する訳でもない。これらの人々が、現地での窓口がなくても、危険な海を渡ってでも、ヨーロッパを目指しているということを見逃してはいけない。

 

このような状況に、オーストラリアのアボット首相は自国の方針を最適とヨーロッパに助言した。オーストラリアは、難民船を捕らえては第三国に移送する方法を採用しており、アボット首相はこれが危険な航海や海難事故を防ぐ為にも一番よいと言う。

オーストラリアに向かう難民船は海軍によって捕らえられ、難民はナウル島などに設置された難民キャンプに移送されれている。受け入れ国は「転送」されてきた難民に滞在許可や様々な援助などを提供する代わりに、オーストラリアから多額の開発援助金を受け取っている。同じようにカンボジアインドネシアベトナムパプアニューギニアなども移送先になっており、既にイラン、アフガニスタンパキスタンスリランカなどからの難民を多数、各地に移送している。

しかし移送地での生活条件は苦しい上に、難民キャンプの管理は民間会社に委託されており、管理者側からの暴力や略奪、難民による小規模の暴動や自殺も発生しているという。

 

同様の対応はヨーロッパも一部で10年以上してきたことで、北アフリカの中継国を第三国移送先として、これらの国にEUが資金援助を行ってきた。例えばチュニジアには難民送還の協力として年間140万ユーロの追加資金援助を約束した。しかしながら、この方法は一部の難民に適用するのみであれば、ヨーロッパ圏入国の可能性が残り、危険渡航の抑止にはならない。しかし全面的な適用はヨーロッパの価値観とは合わない。ドイツの世論調査では、全難民移送の支持は12%に過ぎなかった。その上、オーストラリアと人数の規模も異なる為、採用候補として検討されることはないと思われる。

 

続いて現地での対策だが、喫緊の課題としては、現在急増している危険渡航を防ぐことであり、この時に特に重要となってくるのがリビアである。既に述べたように大多数の船の出港地となっているリビアは、シリア、エリトリアをはじめ、サブサハラアフリカ各国やパキスタンバングラディッシュと、別地域から流入してきた人々にとっての、ヨーロッパへの最終中継地となっている。モロッコに領地を持つスペインは、モロッコ警察との協力により難民の流入を防ぐことに成功しており、現地への開発援助と現地保安機構とEUの協力関係構築の組み合わせを提案する。リビア海岸の出港を管理する為には、現地保安機構やリビア政府との協力関係が欠かせないが、交渉相手となるべき安定した権力を持つ政府が不在の状態だ。ガダフィ政権時代はリビアを出港地にする難民がこれほど居なかった、ヨーロッパが同じことをしかも道徳的に出来るだろうか。二勢力が政府として分立し、それを機会に勢力拡大を狙うイスラム国系の武装勢力がテロ行為を行っている混乱の中、地域で仲介業者や密航を管理するには、海軍を動員する必要があると考えられる。イタリアの内相アルファノは、国連難民高等弁務官事務所主導の難民キャンプをニジェールスーダンチュニジアに設置することを提案している。管理の困難なリビアにこだわらず、周辺国で足止め・誘致するという考え方だ。

 

より長期的な対策としては、難民の出身各国での援助が挙げられる。難民最多排出国のシリアとエリトリアはどちらも現政権とのより強い姿勢での対話が求められる。ただ西欧の介入が、現在の中東の混乱状態の一端を担っていることを考えれば、慎重にならざるを得ない。

エリトリアでは徴兵制度が国外脱出の最も大きな原因となっている。青年には期限無しの徴兵が課され、家族は収入源を失う。徴兵を逃れ国外へ渡り、外国で得た収入を家族に仕送りするというのが彼らの目的だ。しかしエリトリアの政治構造上、資金援助が問題解決に繋がりづらいというのも現状あでる。そのため目下ドイツはエリトリアへの援助はごく限定的であり、エリトリアなど周辺国の難民が約63万人滞在するエチオピアでの援助・協力に力を入れている。

シリアは内戦の長期化に加え、昨年からはイスラム国の台頭による宗教難民も増えている。中途半端な介入をして更なる混乱を起こす危険を選ぶよりは安定地域の開発援助に力を入れ、その土地への帰国、移民を促す方がヨーロッパの役割として適当かもしれない。

 

最後に、ヨーロッパ到達後の難民についてだが、提案されている事項の一つにEU各国への難民の分散負担、その為のダブリン第三合意の棚上げがある。ダブリン第三合意に基づくと難民は到着国で指紋を採取され、指紋採取国で難民申請をしなければならないことになっているが、別のEU国に親戚が居る場合など、地理的に到達し易かった国とは別の国での難民認定を望むケースもある。その場合、到着国出国希望者は指紋の採取を拒むが、中には暴力を伴う強制的な指紋の採取がされたという報告もある。一方で地理的に多数の難民が到着するイタリアなどで、意図的に登録をせず、他国へ移動させているともいわれている。他国で難民申請の受理され易いシリア人やエリトリア人などは登録の省略が行われており、国籍による待機時間の差別に繋がっているという。しかし10ヶ月で15万人が到達したというイタリアにとって、負担が大きすぎるということは理解しなければいけない。

 

EU28カ国のうち、難民の約半数はドイツ、フランス、スウェーデンの3カ国による受け入れとなっている。さらにイタリアとイギリスを加えた上位5カ国の受け入れ割合は70%に及ぶ。ドイツにおける昨年の難民申請は前年比60%増加の20万2834人、今年に入ってからは更に増加の傾向にある。フランスでは64000人の難民申請があったが、申請の結果が出るまでに平均で18ヶ月の待機時間があり、受け入れ施設も定員オーバーしている。こういった一部の国で事務処理や一時待機施設の容量を超えている。ヨーロッパを目指す難民の60%が、特定の国を予定していないという調査結果がある。これらの状況を踏まえると、各国での負担分担をしない理由は見当たらない。分散受け入れ制度が導入されれば難民が増えることになるポーランドなどの国は、この変更を望んでおらず、流入の阻止を強化すべきだとする。

 

難民受け入れ上位国の中でも、更なる難民の増加を望まない声もある。その理由として挙げられているものに、国内右翼勢力の支持が拡大するというものがある。大規模な難民の増加が一般市民の右傾化をもたらすことを憂慮したものであるが、短期的により心配されるのが、極右による難民への攻撃だ。ドイツでも先月、ザクセン・アンハルト州の田舎町で難民宿泊施設への放火があった。ドルトムントでは、難民宿泊施設の周りを覆面をした40名の過激派右翼グループが、松明を手に「外国人は出て行け」のかけ声とともに行進したという事件もあった。

既に難民を多く受け入れている国家は、更なる難民を受け入れる用意があり、難民の少ない国家は国境警備の強化を望む。外国人の少ない地方都市の方が、差別的事件が多く、外国人の多い場所では、極右の活動は小さい。これらの状況は論理的に、ある事実を示している。つまり難民や外国人を受け入れたら起こりうる変化や危惧、或は、より短絡的な人種差別は、外国人の居ない地域で大きいということである。

 

しかし、難民に関して事件を起こすのは、地元住民に限らない。10代のアフガン人同士の刺殺事件や、100人規模の成人による集団の喧嘩をはじめ、難民同士の暴力事件も絶えない。難民が急激に増加したことにより、普通住宅の斡旋が間に合わず、プレハブの仮設住宅での待機が長期化しており、人々のストレスが溜まってきている。そもそも戦争のトラウマなどを抱えた人も多い上に、仮設住宅施設は過密状態にある。

 

こういった更なる課題に対処していく為にも、これまでの難民受け入れの経験を生かすことが求められる。各国での分担が始まる場合、「受け入れ先進国」は新規受け入れ国をサポートすることが求められる。

 

首脳会談で持ち越された課題も少なくないが、難民問題は6月初頭のG7でのテーマの一つになる。

 

これから夏になると海の状態が良くなるため、密航船は増えると予想されている。

 

 

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〈感想〉

 

我々島国の感覚からすると、EUの懐の大きさに感心してしまいますが、ドイツではむしろ対応の遅さ、甘さへの批判の方が目立ちます。EUは難民問題を見ないふりしているという批判にかけて、見ないふりなどしていない、見殺しにしているという批判すらあります。その基礎には、戦争や政治的迫害から逃れてきた人々を救うと約束する欧州連合基本権憲章があります。日本では考えられない程、先進国としての責任が問われています。

昨年EU圏に入った難民は62万6065人であり、これも日本人にはちょっと考えられない量です。それでもメディアでは人口5億のEUにとって、60万の難民は困難な数字ではない、人口600万人のレバノンでは100万人以上のシリア人難民を受け入れた、と評価されています。

 

日欧の感覚の違いは一般市民だけでなく、政治家の発言にも現れています。以下に、特に印象的だったドイツでの発言を少し紹介します。

 

メルケル首相「(人々がヨーロッパの入り口でこのような死に方をすることは)我々の価値観に合わない」

首相報道官ザイバート 「このような状態はヨーロッパに相応しくない」

欧州議会議長シュルツ「こんなにも多くの国が責任から逃れ、こんなにも微々たる資金しか救援活動に用意しないのは、狭量の証明であり恥である」

内相デメジエール「このことについてEUは罪は負っていないが、この問題を解決する責任を負っている。」

ツァイト紙「完璧な解決策がないことは、何らかの手を打たないことの理由にはならない」

 

先に述べたように、難民が多い国の方が受け入れに積極的であり、日本人の抵抗感の理由の一つに難民の少なさもあるかもしれない、などと思います。少子化・人口減少の進む日本でも、移民政策について話題になり始めています。受け入れ後進国である日本は、その立場を利用し、既に多くの経験を積んだ移民国家から成功と失敗を学び、参考にすることができます。国連事務総長パン氏は、難民問題解決のための国際的社会の団結と負担分配を呼びかけました。日本の国連難民高等弁務官事務所への資金提供は世界第二位ですが、3260件の難民申請に対し、2013年に受け入れられた難民は6人です。資金以外の方法、例えばより様々な分野の専門家を現地難民キャンプへ派遣すれば、将来的な受け入れの可能性を検討する為にも、勉強になるかと思います。

 

地中海難民の記事には、沈みかける船や、木の切れ端に掴まる人、色々な写真が出ていましたが、親から離れ知らない外国人の救護隊に抱かれ泣き叫ぶ幼児が、それでもその救護隊にしっかりとしがみついているのが印象的でした。

 

 

〈参考記事〉

 

https://www.bundestag.de/dokumente/textarchiv/2014/kw27_pa_innen/283326

http://www.zeit.de/politik/ausland/2015-04/fluechtlinge-mittelmeer-eu-aussenminister-plan

http://www.zeit.de/politik/ausland/2015-04/eu-staats-und-regierungschefs-fuer-gipfel-zu-fluechtlingskatastrophe

http://www.zeit.de/politik/ausland/2015-04/mittelmeer-katastrophe-kapitaen-verhaftet

http://www.zeit.de/gesellschaft/zeitgeschehen/2015-04/mittelmeer-fluechtlingsschiff-in-seenot

http://www.zeit.de/gesellschaft/zeitgeschehen/2015-04/mittelmeer-fluechtlinge-schiffsunglueck-sicherheit

http://www.zeit.de/gesellschaft/zeitgeschehen/2015-04/leichen-fluechtlinge-malta-bootsunglueck

http://www.zeit.de/kultur/2015-04/schleuser-giampaolo-musumeci-interview

http://www.zeit.de/politik/ausland/2015-04/fluechtlinge-fluechtlingspolitik-eu-mittelmeer-frontex

http://www.zeit.de/politik/2015-04/fluechtlinge-eu-sondergipfel-militaereinsatz-libyen-schlepper

http://www.zeit.de/politik/ausland/2015-04/fluechtlinge-eu-sondergipfel-frontex-triton-mission

http://www.zeit.de/politik/ausland/2015-04/mittelmeer-fluechtlinge-mare-nostrum-deutsche-debatte

http://www.zeit.de/politik/ausland/2015-04/italien-fluechtlinge-unterkuenfte-probleme-mittelmeer-mare-nostrum

http://www.zeit.de/politik/deutschland/2015-04/mueller-fordert-wiederaufnahme-mare-nostrum

http://www.zeit.de/gesellschaft/zeitgeschehen/2015-04/fluechtlinge-muslime-christen-boot-mittelmeer-verbrechen

http://www.zeit.de/gesellschaft/zeitgeschehen/2015-04/fluechtlinge-mittelmeer-libyen-ertrunken-frontex-italien

http://www.zeit.de/politik/ausland/2015-04/australien-kambodscha-abkommen-fluechtlinge-blutgeld

http://www.zeit.de/2015/15/rechtsextremismus-neonazis-npd-nsu-dortmund

http://www.zeit.de/2015/17/fluechtlingsheim-gewalt-sozialarbeiter

http://www.zeit.de/wirtschaft/2015-04/afrika-gerd-mueller-entwicklungsminister-wirtschaft-kolonialzeit-verantwortung

http://www.zeit.de/politik/ausland/2015-04/eu-gipfel-fluechtlinge-10-punkte-plan

http://www.faz.net/aktuell/politik/ausland/afrika/fluechtlingstragoedie-im-mittelmeer-politik-unter-druck-13547913.html

http://www.faz.net/aktuell/politik/europaeische-union/weiteres-fluechtlingsschiff-mit-300-menschen-in-seenot-13548365.html

http://europa.eu/rapid/press-release_IP-13-1199_de.htm

http://www.spiegel.de/politik/ausland/fluechtlinge-im-mittelmeer-fakten-zu-den-bootsfluechtlingen-a-1029512.html

http://www.spiegel.de/politik/ausland/flucht-uebers-mittelmeer-europa-braucht-legale-einwanderung-a-1029417.html

http://www.welt.de/politik/ausland/article140065900/Vor-allem-die-Italiener-sind-auf-Merkels-Seite.html

http://www.welt.de/politik/ausland/article140006656/EU-verdreifacht-Mittel-fuer-Seenotrettung.html

http://www.mainpost.de/ueberregional/politik/zeitgeschehen/Kollision-als-Ungluecksursache;art16698,8684907

http://www.focus.de/politik/ausland/rettung-verfolgung-asylbueros-10-punkte-plan-das-sind-die-schnellen-eu-massnahmen-gegen-das-fluechtlingsdrama_id_4626018.html

http://www.kfibs.org/assets/files/article/KFIBS-Analyse_3_2015_Fluechtlingskatastrophen_im_Mittelmeer_u._EU-Zuwanderungspolitik_Hoehn_Final.pdf

https://mediendienst-integration.de/fileadmin/Dateien/Informationspapier_Mittelmeer_Fluechtlinge.pdf

http://www.t-online.de/nachrichten/deutschland/id_73831548/deutsche-wollen-laut-umfrage-legale-einwanderung-ermoeglichen.html

http://www.zeit.de/politik/ausland/2014-04/japan-fluechtlinge-einwanderer